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「悲しみよ、こんにちは」

一日一冊、できれば3冊……。


という気構えでこの一ヶ月弱過ごしている私、黒紅茶。


フランソワーズ・サガンが18歳のときに書いた処女作、
『悲しみよ、こんにちは』について紹介したい。





あらすじ:

舞台は南フランス、夏。
もうじき18歳になる少女セシルは、父親のレエモンと楽しく暮らしていた。
レエモンは女ったらしの実業家。愛人をつくっては別れる遊び人。そんな父親を
セシルはこよなく愛している。そんなレエモンはエルザという愛人をつくっていた。
レエモンとエルザ、そしてセシルの三人は夏のバカンスを別荘で過ごすこととなった。
そこに、セシルの亡き母の友人で、レエモンとも付き合いの長い女性アンヌがやってきた。
アンヌは聡明で美しく、セシルはそんな彼女に憧れと好意とを抱いていた。
だが、レエモンのアンヌへの態度に違和感をおぼえはじめる。レエモンは
エルザを相手にしなくなり、アンヌとばかり時間を過ごすようになったのである。
レエモンは亡き妻の友人であるアンヌを一人の女性として愛するようになった。
その心を知ったエルザは悲しみ、別荘を出ることを決意する。セシルは、レエモンが
エルザを捨ててアンヌを愛するようになったことに複雑な感情を抱き始める。そして、
レエモンがアンヌと結婚することを知るや、その反感は大きく膨らんでいく。

アンヌはセシルに厳しく接するようになる。セシルのボーイフレンドであるシリルとの
交際を控え、勉強に専念するように注意するのだ。アンヌは、セシルの母親になろうと
していた。アンヌへの好意をもつ半面、アンヌと父との結婚で気楽な生活が破綻すること、
父を独占できなくなることなどを恐れるセシル。彼女はエルザが別荘に置いたままにしてあった
荷物を回収しに訪れたとき、ある計画を練る。

レエモンはアンヌと時間を過ごすとき、“ある風景”をみるようになった。
それは別荘を出て行ったエルザと、セシルのボーイフレンドであるシリルのふたりが仲良く
一緒にいる姿である。レエモンはエルザがシリルと交際を始めたのだと思うようになり、急に
エルザのことを想うようになった。
それはセシルがエルザとシリルを利用した計画――父の再婚をやめさせ、
アンヌを追い出すための計画だった。

セシルの計画通りに、再びエルザに想いを募らせていくレエモン。セシルはアンヌと一緒に
時間を過ごす中で、彼女の厳しさとともに存在する優しさを感じるようになり、計画を立てたことに
後ろめたさを感じるようになる。だが、彼女はやめることはできなかった。

ついにレエモンはエルザと会った。そして、それを知ったアンヌは別荘を出て行く。
後悔の念を胸にセシルはアンヌを引き止めようとするが、すべてを悟ったような表情でアンヌは
セシルに別れを告げる。嗚咽するセシル。アンヌが車で去りゆく姿をレエモンは何も知らないまま
見ていた。

夕方、アンヌへの謝罪の手紙を書いていたセシルとレエモンのもとに悲報が届く。
アンヌが自動車事故で亡くなったというのだ。自殺か、事故死か、はっきりとは分からないという。

父の再婚を阻止したセシルはエルザとシリルに会うが、眼中になかった。
セシルとレエモンは元の自由気ままな、気楽な暮らしを取り戻した。だが、セシルの胸は
アンヌを喪った感情でいっぱいだった……。











私は自分に言った。
『アンヌは冷たい。私たちは暖かい。アンヌは高びしゃで、私たちはわがままだ。
アンヌは無関心で、人びとはアンヌの興味を惹かない。人びとは私たちを熱中させる。
アンヌは打ちとけない。私たちは陽気だ。私たち二人だけが生きていて、アンヌはその
冷静さとともに私たちの間にこっそりと入り込むだろう。アンヌは温まり、徐々に
私たちの無頓着な、心地よい熱を奪ってしまうだろう。アンヌは私たちからみんな
盗んでしまうだろう。美しい蛇のように……』

(P67-68)



主人公であるセシルはアンヌに好意を寄せていた。聡明な彼女を慕っていた。だが、
それは“人間”としてであった。彼女が父レエモンの再婚相手――つまり“女性”という
認識に変化したとたん、反発の感情が生まれ、それは危機感へとつながった。その危機感の
表出が上記の文である。


本作はある少女の心の葛藤を描いた作品であると私は思う。

アヴァンチュールな日々を謳歌する父レエモン。
大学生で、自分を愛してくれる青年シリル。
愛する父に捨てられる形となった愛人のエルザ。


どの登場人物も魅力的だし、その登場人物に抱くセシルの感情というのも興味深い。

だが、物語のメインはふたりの女性である。



聡明で完璧と呼べるアンヌ。

肉体・精神ともに発達途上にある少女セシル。



アンヌは大人であり、セシルは少女――子供だ。
当然、アンヌは大人として、将来の娘となるであろう子供セシルに接する。だが、
セシルはそれを不服とする。

自分を“子供”として見るセシルの態度が、繊細な心を持つセシルの反発を抱いたのだ。
不完全な彼女は、完璧な彼女に嫉妬した。それはただアンヌがセシルを子供扱いしたからではない。
アンヌがセシルの敵対者となったからだ。セシルは父レエモンを愛していた。だからその父が
再婚することで、愛を独占できなくなると恐れを抱いたのだ。



セシルのなかでふたつの思いが交錯する。ひとつは彼女を尊敬し慕う思い、もうひとつは
嫉妬心であり憎悪の心。


彼女は何度もアンヌに心のうちを見せたかった。自己開示によって心のモヤモヤを
解き放つことが出来ると信じていた。だが、その機会が訪れることはなかった。そして、
セシルはアンヌを追い出す計画を実行に移してしまった。

「私、とても大げさに言ったのよ。ねえ、アンヌと私、うまく行ってるのよ。
本当は……お互いが譲り合えばね」

(P106)



“……しまった。”そう、彼女は実行に移してしまった。モヤモヤした思いのままに。
それが終盤の悲劇へと繋がっていく。



アンヌの死は、どちらともとることができる。文中ではアンヌの運転の危うさや、彼女が
死の際に通った道は事故が多発する場所と記されていたり――そのことで彼女の死を
“事故死”と認識できる。だが一方で、セシルが彼女を死に追い込んだとも解釈できる。
それはほかならぬ主人公であるセシルにとって幸福なことであった。
罪悪感で苦しむことがないように“できる”からだ。

それで私は、彼女の死によって、またもやアンヌが私たちよりも優れていると思った。
もしも私たちが自殺するとしたら――私たちにその勇気があるとして――それは弾を頭に
撃ち込んでであろう、そして死の責任者の睡眠と血とを永久に紊(みだ)す説明の遺書を
残しただろう。けれどもアンヌは私たちに豪奢な贈物をした。つまり、事故かもしれないと
思わせる大きなチャンスを私たちに残したのだ。危険な場所、アンヌの車の不安定さ。
それを贈物として受けとるほど、私たちはじきに弱くなるだろう。それに、現在もし私が
自殺だと言ったとしたら、それはあまりにも小説的すぎる。父や私のような人間たちのために
自殺することができるのだろうか? 何人も必要としない、生きた人間も、死んだ人間も
必要としない人たちのために……。それに、父とは、事故であったという以外には
話したことがない。

(P153)


しかし、アンヌの死がセシルから離れることはない。セシルとレエモンの生活が
元に戻っても、セシルは彼女のことを思わずにはいられなくなったのた。
完璧な大人、母となるかもしれない女アンヌから……ひとりの人間として、レエモンの浮気に
悲しみ、死んだアンヌとして、セシルの心に残ってしまったのだ。


ただ、私がベッドの中にいるとき、自動車の音だけがしているパリの暁方(あけがた)、
私の記憶が時どき私を裏切る。夏がまたやってくる。その思い出とともに。
アンヌ、アンヌ! 私はこの名前を低い声で、長いこと暗やみの中で繰り返す。
すると何かが私の内に湧きあがり、私はそれを、眼をつぶったままその名前で迎える。
悲しみよ、こんにちは。

(P157)








『罪と罰』に比べたら圧倒的に分量が少ない。その気になれば二時間、いや1時間ほどで
読み終えることが出来るだろうと思う。だが、ここで指摘したいのは分量ではない。
その(あえていうならば)尺のなかでどれだけのことが文章として示されているかではないかと
思うのである。

本作は短い。だが、短いなかに登場人物の心が深く描かれている。また、哲学を
連想させる言い回しもみられる。それでいて読みやすい。スラスラと読めるのである。






サガンがこれを書いたのが18歳。
その年の私にこのような作品が書けたであろうか……。

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黒 紅 茶

Author:黒 紅 茶
どこかの田舎っぺです。
ブログタイトルの“Of”は
飾りです。偉い人にはそれが
分からないのです(苦笑)
詳しくは「はじめに」を
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