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「雪国」

朝起きてから一時間近く、川端康成の「雪国」を読んだ。
クソ暑い時節に雪国での男女の恋愛物語を読むと言うのも何か変な
気もするが…
とにもかくにもレビューを記すことにする。




あらすじ:

親譲りの財産で無為徒食の生活の日々を送る島村。彼はとある
温泉町で駒子という芸者と会う。駒子の純情な人柄に惹かれた
島村は、何度か温泉町を訪れては駒子と会って時間を過ごしていた。
あるとき、島村は温泉町へ向かう汽車の中で葉子という若い女性と席を
一緒になる。彼女は病人の男を看護していた。葉子と病人の男は、駒子が
習っている三味線の師匠の家の者であった。島村は女按摩から偶然、駒子と
病人の男らとの関係を聞くことになる。

按摩の話によると、駒子は病人の男“行男”の治療費を払うために芸者に
出たという。葉子という女性はずっと都会で行男の看護を行っていたが、
彼の命が残りわずかだということで故郷である温泉町に戻ったのだ。

島村は駒子から行男の話を聞こうとするも、何故か駒子は行男と葉子の話を
避けたがる。駒子は、自分が行男の婚約者ではないと断言するが、一方で
師匠が自分と行男とをくっ付けたがっていたことを明かした。
島村が帰る日、駒子は彼を見送ろうとしたが、そこへ葉子があらわれる。
行男が危篤に陥ったというのだ。だが、駒子は行男の死を見届けることを拒否する。
島村は、そんな駒子の感情が分からなかった。

翌年、再び島村は温泉町を訪れる。駒子によると、行男は死に、その母親であった
三味線の師匠も肺炎によって死んだという。以前のように逢引を重ねる島村と駒子。
島村にとって駒子はゆきずりの女でしかなかったが、駒子は島村を本気で愛している
ようだった。ある日、島村は駒子を連れて行男の墓へ向かう。島村は行男という人物と、
彼をめぐる二人の女性の位置に興味を持っていたのだ。二人は墓で葉子と出会う。葉子は
毎日のように墓参りをしているという。そんな葉子を見て、駒子はなぜか機嫌が悪くなる。

島村は葉子と話す機会にめぐまれる。葉子に魅力を覚える島村。会話の中で、
島村は駒子と葉子の間に何か複雑な関係があることを悟る。葉子は、駒子から
「気ちがいになる」と言われているようであった。そんな葉子は、島村に
向かって東京へ連れて行ってほしいと願い出る。葉子と別れたあとで島村は
駒子と旅館で酒を酌み交わす。そこで島村が駒子に「いい女だ」と言ったところ、
その言葉をどのように理解したのか――駒子は涙を流す。そして駒子は、島村が都会に
戻ったら真面目な生活をすると誓う。

都会の家族を忘れ、温泉町に長居を続ける島村。ある夜、映画の上映会場となっていた
繭倉が火事となる。島村と駒子は現場へと駆けつける。燃える繭倉。その二階から
若い女が落ちる――葉子であった。昇天しそうなうつろな顔の葉子を抱きかかえる駒子。
島村は二人に近づこうとするが、人垣で近づくことができない……。










国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
(P5)

この一文から始まる物語は、葉子という女性の転落(死?)の場面をもって
唐突な終わりを迎える。葉子を抱きかかえる駒子の台詞はとても謎めいたものである。

「この子、気がちがうわ。気がちがうわ」
(P148)

島村に対して純情な女である駒子は、なぜ公衆の面前でこのような台詞を言ったのだろうか?
それを読み説く前に、駒子と物語の主人公である島村を見てみたい。




島村についての生い立ちは簡単だ。
家は裕福で、親から譲り受けた財産のおかげで無為徒食の日々をおくり、温泉町に
出ては芸者と遊び楽しんでいる。舞踊の批評やフランス文学作品の翻訳を行っているが、
その本質は遊び人である(家庭が存在することを示唆する記述があるが…どうだろうか?)。



一方のヒロイン駒子。
彼女はもともと東京でお酌をしていて、ある男に落籍されるも、男が死んだために故郷に
戻ったのだ。そして島村と出会い、やがて彼を愛するようになる。彼女は芸者をやっているが、
その目的は行男という三味線の師匠の息子の治療費を払うためだという。

このことから、読者は行男と駒子が婚約関係にあるのではないかと思うが、そこに葉子なる
女性が存在することで、彼らの関係性が分からないものとなる。
(私の考えだが)二人には特別な関係は存在しなかったが、
駒子が一方的に行男に対して何らかの感情を抱いていたと想像できる――だが、それは
片想いとは少し違うように思える。いわば母性である。


駒子はじつに、慈愛に満ちた女性である。
芸者というとどこか妖美なイメージをとかく感じられるが、彼女は純情(否、純朴か?)な
女性である。まっすぐとした心の持ち主で、自らの感情をストレートに表現できるのだ。
彼女は仕事の暇を見つけては島村のもとにやってくる。セックスの直接描写はなかったが、
二人には間違いなく肉体関係があっただろう。だが、島村にとって駒子との関係は
ゆきずりの関係でしかない。したがって、駒子の愛情も“ゆきずりの愛”以上のものには
なれないのだ。そのことを知りながらも駒子はそれ以上の愛を内心で求めている。

「ほんとうに人を好きになれるのは、もう女だけなんですから。」
(P108)

島村を前に、冗談めかしくそう言う駒子。だが、ここに彼女の島村に対する思いと
“島村自分をどう思っているか”という思いが滲み出ている。

そんな彼女は、島村の言葉に過剰反応し、涙を流す。

「君はいい女だね。」
「どういいの。」
「いい女だよ。」
「おかしな人。」と肩がくすぐったそうに顔を隠したが、なんと思ったか、突然むくっと
片肘立てて首を上げると、
「それどういう意味? ねえ、なんのこと?」
 島村は驚いて駒子を見た。
「言って頂戴。それで通ってらしたの? あんた私を笑ってたのね。やっぱり
笑ってらしたのね。」
 真っ赤になって島村を睨みつけながら詰問するうちに、駒子の肩は激しい怒りに顫えて来て、
すうっと青ざめると、涙をぽろぽろ落した。
「くやしい、ああっ、くやしい。」とごろごろ転がり出て、うしろ向きに坐った。
 島村は駒子の聞きちがいに思いあたると、はっと胸を突かれたけれど、目を閉じて
黙っていた。
「悲しいわ。」
 駒子はひとりごとのように呟いて、胴を丸く縮める形に突っ伏した。
 そうして泣きくたびれたか、ぷすりぷすりと銀の簪を畳に突き刺していたが、不意に
部屋を出て行ってしまった。
 島村は後を追うことが出来なかった。駒子に言われてみれば、十分に心疾しいものが
あった。

(P125-126)


島村は褒め言葉のつもりで「いい女」と言ったに違いない。ところが、駒子は
その言葉から島村の本心を感じ取ってしまったのだ。

島村にとって駒子は二重の意味で「いい女」なのだ。
ひとつは、性格的な意味で。もうひとつは、自分にとって都合のいい意味で。

駒子は自分と島村の関係の意味というものを恐らく理解していただろう。だが、
それをダイレクトに感じ取ったがために涙を流したのだ。そして島村は自分が
放った言葉の意味を知り、彼女を追うことができなかった。二人は何事もなかったかの
ように一緒に時を過ごすが、二人の関係の破綻は(読者には)目に見えているのだ。




そんな悲劇の女性である駒子と険悪な関係にある葉子。
行男を看病するために汽車で温泉町にやってきた(もどってきた?)彼女を
「気ちがい」と評する駒子。

この台詞から、葉子と行男は恋仲にあり、それを駒子が嫉妬しているととれる。
葉子は行男につきっきりであった。そんな彼女を目の当たりにして、駒子は
自分と対比してしまったのだ――ゆきずりの愛をする自分と。

駒子は悔しかったのだ。彼女は葉子が行男に愛を向けるように、島村とも
同様の深い関係を築きたかったのだ。だが、島村が望むのはゆきずりの愛でしかない。
つかの間のひとときでしかないのだ……。そのことに駒子は苦しまずにはいられない。
そして駒子から見ると、ゆきずりの愛以上の愛を持つ葉子は自分とは気が違うと
言う意味で、また恋にあまりに真剣という意味でも「気ちがい」なのである。


駒子は、島村との関係をやめることを暗に宣言する。島村はそれを諒解せざるをえない。
きっと彼は再び温泉町を訪ねることはないだろう。



さて、物語は唐突というべきラストで幕を閉じる。
火事の繭倉の二階から飛び降りる葉子。彼女に近づき、叫ぶ駒子。

台詞とその前後の描写を読んで深読みすれば、葉子が繭倉に火をつけたかもしれないと
想像できないこともないが……。火事はたんなる事故として描かれている。

転落する葉子。彼女の明確な死は描かれないが、たぶん死んだだろうと思う。
物語論的観点からみて、彼女に“生きる意義”はないのだ。彼女は駒子の比較対象で
あり、彼女から行男を(ある意味で?)簒奪した人物であったが、島村が都会へ
戻れば、比較の必要はない。それに、行男は死んでいるのだ。葉子は行男の死を
引きづる人物でしかない。そして彼女の死は、何よりも駒子をゆきずりの愛から
現実の生へ戻す役割があるという風に漠然と思えるのだ。
間違いなく、島村と駒子は別れる。そうなると、葉子の存在(そして死は)は、
その決定打となる。









……と、変に文学読解的なレビューになってしまったが、
これが今回の感想ともなる。




古い作品だが、その文体は現代的であり、とてもきれいだ。
三島や谷崎は読む人間を選ぶが、川端の文体は読みやすい方だと感じた。


一読をすすめたいと思う作品だった。

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飾りです。偉い人にはそれが
分からないのです(苦笑)
詳しくは「はじめに」を
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